生体試料に対してエネルギー分散型X線分光法(EDS)を行う場合、様々な課題があります。すべての生体電子顕微鏡検査と同様に、試料の前処理はEDS分析の成功の鍵であり、常に考慮する必要があります。 (例えば SEMによる生体試料の前処理) しかし、試料調製の後、最も多く聞かれるのが「どの検出器を検討すべきか」という質問です。市場には多種多様なEDS検出器があり、この技術に不慣れな研究者にとって、どれが自分の試料に最適なのかを知ることは困難なことです。
TEMとSEMのどちらをお使いですか?いくつかの要件は似ていますが、この2種類の顕微鏡で使用される検出器は異なっています。弊社では、生体試料の高速マッピングと定量分析を可能にするTEM EDS検出器を取り揃えています。詳細は 弊社ウェブサイトにてご覧いただけます。
生体試料用EDS
ここでは、生物学的なSEMに焦点を当てたいと思います。私のキャリアの大部分は、SEMの研究に費してきました。 昆虫や生物全体、大きな組織サンプルの観察から、生体分子の高解像度超微細構造イメージング、さらに最近では細胞や小器官の3次元体積電子顕微鏡観察まで、幅広く対応しています。 SEMはライフサイエンス研究に大きな汎用性をもたらします。しかし生物学的SEMには、EDSを困難にしている重要な側面があります。
図: 樹脂に埋め込んだハエトリグサの葉と腺からUltim Extreme検出器とUltim Max 170で取得したマップとスペクトルの比較です。Ultim Extremeのマップでは信号が改善され、特に窒素を表す黄色の信号に注目します。Ultim Max 170(赤)と比較して、Ultim Extremeスペクトル(黄)はより明確な窒素のピーク(青い矢印)が見られます。
従来のSEM-EDSは、試料から強いX線を発生させるために、比較的高い加速電圧(20~30kV)と高いビーム電流を使用しています。生物学用SEMは、試料へのダメージ防止、帯電の可能性低減、画像分解能の向上のため、低い加速電圧とビーム電流を使用しています。
もう一つ、生体試料はほとんどが軽元素(水素、炭素、窒素、酸素、ナトリウム、マグネシウム、リン、硫黄、塩素、カリウム、カルシウム)と、微量に含まれることの多い重元素(クロム、マンガン、鉄、コバルト、銅、亜鉛)から構成されているという点です。これは試料から放出されるX線が比較的低エネルギーであることを意味します。低エネルギーのX線は、ほとんどのEDS検出器が持つウインドウで吸収され、検出できるX線信号の量が減少してしまいます。
生体試料に対する感度の向上
UltimExtreme検出器は、ウインドウがなく、先端部を改良したデザインで、いくつかの利点を備えています。
- この検出器は、ウインドウに吸収されるような非常に低いエネルギーのX線に対して感度があります。特に窒素の信号は影響を受けることがあります。
- 先端部を改良したことで、検出器を顕微鏡のポールピースに近づけることができました。これには2つの利点があります。
- 検出器が試料に近いので、試料から放出されるX線をより多く収集することができます。
- 試料の位置を最適化することで、顕微鏡のポールピースに近づき、電子線像の解像度を向上させることができます。
- Ultim Extremeは大面積センサーを搭載し、マップ収集のスピードが向上しました。生体試料への蓄積ビーム照射量を低減することで、ドリフトや帯電アーティファクトを低減し、試料へのダメージを低減します。
- 高感度なエレクトロニクスにより、生体試料から放出される比較的低い量のX線も検出し、マッピングし、定量化することができます。
- 以上のことから、UltimExtreme検出器は、低エネルギーX線に対して、他の大面積検出器の10~30倍の感度を持つことになります。
EDSによる新たな研究の可能性
どちらの検出器を選んだとしても、EDSが生物学研究に新たな道を開くことは間違いありません。 以前のブログで紹介したように、EDSは以下を提供します。:
- 生体試料内および生体試料上の未知の特徴を高速で組成同定
- カラー電子顕微鏡写真による超微細構造の解釈の改善
- 試料中の自然元素と非自然元素の相対量
試料の超微細構造解析と試料組成を組み合わせる能力は、生物学電子顕微鏡のあらゆる分野に適用可能であり、Ultim Extreme検出器はこれらの研究に対応する理想的なシステムです。
Ultim Extreme検出器の詳細については、当社の ウェブページ をご覧いただくか、最近のウェビナー「Advanced techniques in SEM and EDS for biological samples」をご覧ください。
生物学用EDSの詳細については、 アプリケーションページや、このトピックに関する過去の ブログと ウェビナーライブラリをご覧ください。