SEMで隕石サンプルを分析することは常にエキサイティングですが、約46億年前に作られたと推定される珍しい炭素質コンドライト隕石を分析することは、非常に楽しいことで、まるでタイムトラベルのようです!
最近、私は2021年2月にグロスターシャー州の小さな町に落下したウィンチコム隕石を分析する機会に恵まれました。この地球外の岩石は、イギリスで1000人以上が目撃した壮大な流星火球現象で地球に落下しました。 UK Fireball Alliance (UKFAII) が迅速に対応し、ウィンチコムの地元住民の協力のもと、約600gの隕石物質が科学的分析に適した状態で回収されました。 破片は採取前に降雨がなく、落下から12時間以内に保護された環境に置かれたため、宇宙探査機が小惑星から回収したサンプルと同様の品質であることがわかります。
この隕石の最大の部分(図1)は、現在、ロンドン自然史博物館に展示されています。その他の部分は、英国内のさまざまな研究所に分与され、異なる手法で綿密な分析が行われ、英国ウィンチコム・コンソーシアム研究が形成されました。
図 1: ロンドン自然史博物館に展示されたウィンチコム隕石。写真提供:ロンドン自然史博物館管理委員会
この隕石を精査した結果、46億年弱という地球そのものと同じような年代の珍しい炭素質コンドライト隕石であることが判明しました。この隕石の微細構造と組成を理解することで、地球がどのように形成されたか、初期の太陽系はどのようなものであったか、ひいては地球の海や生命の起源について重要な手がかりを得ることができます。
オックスフォード・インストゥルメンツは、英国ウィンチコム・コンソーシアム研究に参加しており、自然史博物館から隕石のサンプルを受け取りました。このブログでは、私たちが研究を始めているこの隕石の壮大な微細構造を強調するいくつかの予備的な結果を紹介します。
この分析には、Ultim Max 170 EDS検出器と AZtecLive ソフトウェアを搭載した高分解能FEG-SEMを使用しました。 試料の全体像を把握するために、まず試料全体の広域マップを収集しました。つまり、一連の同時電子線画像とX線マップをつなぎ合わせて、1枚の大きなマップを作成したのです(図2)。これにより、コンドリュールや金属粒がどのように存在しているのか、概観することができました。図2のように、隕石試料は導電性の炭素樹脂で赤く囲まれています。
図 2: AztecLiveソフトウェアを使って、隕石サンプルの広域マップを形成するために、一連の個々のマップをつなぎ合わせたもの。同じ領域のX線元素マップを組み合わせたカラー画像。
ライブケミカルイメージング (LCI)を使うことで、興味のある分析領域を簡単かつ迅速に見つけることができるようになったのは大きな利点です。この新しい技術のおかげで、X線元素マップをライブで見ながらナビゲートすることが可能になりました。従来の「移動、停止、収集、繰り返し」というワークフローに比べ、画期的なことです。
LCIを使用したサンプルナビゲーションのショートムービーをご紹介します。:
動画にあるように、LCIはナビゲーション中に電子線画像とX線マッピングを同時に行うので、特徴的な組成の部分を探し出すのに非常に有効です。ビデオでは、図2の隕石の外側最表層にある厚さ0.5μmから数百μmの領域に注目しました。この部分は、明らかに他の部分とは異なる構造を持っています。この表面層は、隕石のフュージョンクラストと呼ばれるものです。フュージョンクラストとは、隕石が大気圏に高速(通常、秒速15〜70km)で突入した際に、高温下で変形した薄い溶融層です。隕石が大気圏を通過する時間は4〜5秒ですが、この時に発生するエネルギーが隕石の表面を溶かします。(多くの人が見た火球を見れば一目瞭然です!)
図 3: (a) ウィンチコム隕石のフュージョンクラスト層からの二次電子像と組み合わせたEDSマップ(1,000倍)、(b)10,000倍
図3は、大面積マップ(図2)の赤い矩形で示した領域から収集した、倍率の異なる2枚のフュージョンクラストの高解像度マップです。解析の結果、ケイ酸塩に富むマトリックス中にファセット化された酸化鉄とカンラン石の粒を含む微細な構造が確認されました。この隕石のコア部分には魅力的な微細構造がいくつもあり、1つのブログでは紹介しきれませんが、私が収集した最も美しいEDSマップの1つの図をもう1つだけ追加しておきます。
図 4: Ultim Max 170で収集した超高分解能EDSマップ。変質したカンラン石粒の中に発生した鉄分に富む蛇紋岩脈の構造
図4は、超高分解能EDSマップと電子線画像を組み合わせたものです。変質したカンラン石粒(赤)の中に鉄分に富んだ蛇紋岩の鉱脈構造(青)を示しています。
このブログでは、隕石の微細構造の面白さをお伝えしましたが、いかがでしたでしょうか。私は材料科学出身の電子顕微鏡技師ですが、この試料に取り組むことで、隕石について多くのことを学ぶことができました。隕石はとても魅力的な題材です。
ウィンチコム隕石については、今後とも研究を進めていきますので、ご期待ください。