SEMは1倍から200万倍の倍率で様々なサンプルを分析することができます。日常のルーチン分析においては、EDSは通常、ポイント指定してクリックすることで、元素情報を迅速かつ容易に得ることができます。しかしより複雑なデータを取得するためには、電子顕微鏡の設定やサンプルの準備方法、分析の種類を変更する必要がある場合もあります。
その一例が、ナノメートルスケールの高解像度EDSマッピングです。
高分解能EDSマッピングは、以下の3種類のSEM収集ルーチンを用いて効果的に取得できます。:
- 従来の高kV SEM
- 低 kV SEM
- STEM-SEM
それぞれのルーチンには異なる長所と短所があり、分析対象のサンプルによってどのようなアプローチが最適であるかが左右されます。
従来の高kV SEM
従来のSEM EDS分析では、20kVなどの高い加速電圧と比較的大きなワーキングディスタンスを使用していました。その結果、空間分解能(検出可能な最大の対象物のサイズ)は、サンプル上に形成される電子プローブの大きさによって制限されます。
この方法は、SEM初心者が高解像度のEDSマップを取得するための最も簡単な方法です。ほとんどのSEMは、このジオメトリーに最適化された標準的なEDS検出器を用いて20kVで動作します。この方法の主な欠点は、電子プローブが非常に大きく、マッピングできる最大の対象物サイズが約1000nm(1µm)と、空間分解能が最も低いことです。
- 20 kV 加速電圧
- 10-15 mm ワーキングディスタンス
- SEMのプローブサイズで制限される空間分解能
- EDSマップの最大空間分解能≈1000nm
低 kV SEM
- 1.5-10 kV 加速電圧
- 4-8 mm ワーキングディスタンス
- 相互作用体積によって制限される空間分解能
- EDSマップの最大空間分解能 ≈5 nm
加速電圧を低く、ワーキングディスタンスを短くすることで、電子ビームはより微細なプローブを形成するため、SEMの空間分解能が大幅に向上します。 10kVのような比較的高い電圧でも低kVによる解像度の向上が見られますが、最高の解像度を得るためには5kV以下の加速電圧を使用する必要があります。
これにより、EDSマッピングの空間分解能は高kVよりも桁違いに向上し、100~5nmの対象物を捉えることができるようになりました。 加速電圧の選択によって、相互作用体積とX線が生成される領域が決定されるため、空間分解能を左右することになります。
STEM-SEM
高空間分解能のEDSマップを得るためのもう一つの方法は、STEM-SEMであり、厚さ100nm以下の電子線透過サンプルを使用して、10nm以下のマップを得ることができます。 30kVという大きな加速電圧をかけて、電子線を試料に透過させ、STEM検出器で画像化し、X線を発生させてEDS分析を行います。 バルク材料ではないため、EDSの空間分解能が相互作用体積によって低下しないことから、これらのサンプルを分析する際に、大幅な分解能の向上が見られます。 この技術は、高分解能のEDS分析を非常に簡単に行うことができますが、電子線を透過するサンプルを必要とするため、サンプルの準備が複雑で時間がかかることがあります。
- 20-30 kV 加速電圧
- 6-10 mm ワーキングディスタンス
- サンプルの厚みによる空間分解能の制限
- EDSマップの最大空間分解能 ≈5 nm
低電圧EDSとSTEM-SEMで取得したNi超合金サンプルの高分解能EDSマップ(下図)を比較すると、どちらの手法でも20nm以下の対象が容易に観察できます。しかしこの材料の場合、STEM-SEMモードでは大幅な分解能の向上が見られます。
高分解能EDSマッピングは、SEM内で様々なアプローチを用いて実現することができます。どの技術を利用するかを決める際には、サンプルと電子顕微鏡の条件が制限要因となります。従来の20kV SEMから分析モードを変更することで、標準的な20kV SEM分析よりも桁違いに高い空間分解能を実現することができます。