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NanoAnalysis | Blog
SEMでTEMのようなEDS分解能を得ることは可能でしょうか?

17th November 2021 | Author: Dr Haithem Mansour

鋼や合金への応用

材料の性能や機械的特性を向上させるためには、材料の微細構造を理解することが必要であり、たとえ小さな特徴であっても重要な意味を持ちます。 例えば、Funakawaら[1]は2013年に、ナノメートルサイズの炭化物を制御してフェライト結晶粒に分散させることで、鋼の機械的特性の重要な改善を達成したことを示しました。

このような微細構造を評価する装置としては、長年、透過型電子顕微鏡(TEM)が使われてきましたが、最近では走査型電子顕微鏡(SEM)でも同様の分析が可能になっています。 これを可能にしたのは次に示す技術革新があったためです。:

  • フィールド・エミッション・ガン(FEG)SEMの光学系の改良により、低電圧・低ビーム電流で高解像度のイメージングが可能になったこと。
  • ナノ分析技術(ウインドウレスEDS、STEM-SEMモードでのEDS、透過型菊池回折など)の開発と強化。

SEMでTEMのような分析を実現することは、多くの利点があり、非常に注目されています。:

  • コストが安く、時間がかからない
  • 比較的容易な試料調製(必ずしもTEM薄膜試料を必要としない)
  • TEM薄膜試料の代わりにバルク材を分析することで、より統計的に代表的な結果が得られる

鉄鋼や合金中の析出物の同定には、通常、特性X線や電子線回折の分析が必要です。 今回のブログでは、エネルギー分散型X線分光法(EDS)の技術に焦点を当てます。

金属合金のナノ構造をSEMで解析するためには何が必要でしょうか?

1.    試料調製

サンプルの前処理は、分析が可能かどうかを決定する重要なステップであり、分析結果の質と正確さに影響を与えます。 鋼や合金には、機械的研磨、イオンミリング、電解研磨など、多くの研磨技術を用いることができます。
鋼や合金のサンプルでは、機械研磨が最も使用されます。通常、損傷した表面層を除去し、可能な限り最高の仕上げを実現するために、いくつかの段階の研磨で構成されています。 研磨レシピ(研磨粒子の大きさ、研磨時間、酸化物粒子やダイヤモンド粒子の使用を含む)は、材料ごとに異なることが多いです。

2.    プラズマクリーニング

最適な結果を得るためには、試料の準備だけでなく、試料を清浄にする必要があります。試料の準備や取り扱いによって炭化水素系の汚染が発生し、電子ビームが照射されると表面に層が形成されます。この現象はkVが低いと強調されるため、ナノ分析では問題となります。

SEMにおけるプラズマクリーニングは、通常、酸素プラズマを使用し、炭化水素汚染の除去に非常に効果的であることが証明されています。下図に示すように、プラズマクリーニングは表面のほとんどの汚染を除去するのに非常に有効でした。

図. 1. (左) 領域をスキャンした後の汚染の蓄積; (右) プラズマ洗浄で汚れをほぼ完全に抑制 [2]

3.    観察パラメータと適切な検出器の選択

高い空間分解能を得るためには、SEMの実験条件が重要です。 X線の相互作用量は加速電圧に応じて減少するため、EDSでナノ構造(<100nm)を分析する場合、バルクサンプルの分析では低い加速電圧(<5kV)で分析する必要があります。 さらに、電子線プローブのサイズを最小化して信号を最大化するためには、低いビーム電流と短いワーキングディスタンス(WD)が必要です。 このような極端な条件でEDSを行うためには、高解像度のFEG-SEMが必要となりますが、これは一般的に、最小のビームスポットとごくわずかなビームの収束を実現するためにビーム減速モードが必要となります。 このような実験条件では、インレンズやインカラムの検出器も非常に有効です。

このような運用条件は、従来のEDSに求められる条件とは正反対であり、専用のソリューションが必要となります。 Ultim Extreme EDS検出器 は、超高分解能の低加速電圧分析用に開発・最適化されたものです。ウインドウのないコンパクトなデザインは、上記で説明したような極限条件での分析に最適です。

4.    ドリフト補正

ナノ構造を分析するには、同じエリアを高倍率(50k X以上)で数分間スキャンする必要がありますが、SEMの安定性(温度、冷却、振動、汚染...など)によっては、分析中にスキャン領域がシフトしてしまう可能性があります。 分析終了時に良い結果を得るためには、このシフトを補正することが重要です。この問題を解決するために、AZtecLiveソフトウェアには非常に効果的なドリフト補正ルーチン(AutoLockTM)が用意されており、これはナノメートルスケールの分析を行う際には不可欠です。

鋼の研究のための高空間分解能SEM-EDSの例

最初の例は、JFEスチール様よりご提供いただいた、鋼の中の析出物の研究です。 下の図は、同じエリアを2つの異なる加速電圧(最初は15kV、次に1.5kV)でスキャンしたものです。電子線像とEDSマップの両方で、解像度、特に表面に対する感度が向上していることがわかり、MnBOナノ析出物の存在が明らかになっています。

図. 2. (左) 15kVで収集したEDSマップ (右) 同じエリアを1.5kVで収集したマップ。 MnBO析出物の存在が明らかになりました。 (データご提供 JFEスチール様)

 

2つ目の例は、マンチェスター大学との共同研究で、1µmのダイヤモンドで仕上げ研磨された金属組織サンプル中の酸化物充填クラックの研究です。 下の図は、150mm2の従来型EDSを用いて15kV、ウィンドウレスの Extreme 検出器を用いて1.5kVの条件で、同じエリアのEDS分析を行ったものです。 1.5kVで取得したFeマップの詳細は、薄い2層の酸化物構造の存在を明確に示しています。 (酸化物/金属の界面に隣接するFe-poor酸化物。) これらの詳細は、15kVマップでは見られません。

 

図. 3. 1.5kV (a)と15kV (e)の電子線エネルギーで収集されたSEイメージ。 1.5kVで収集したEDSマップ : O K (f), Fe L (k), Ni L (p) と 15kVで収集したEDSマップ: O K (j), Fe K (o), Ni K (t).

 

これらの例は、適切な装置とワークフローを使用することで、SEMにおいて高解像度のTEMのような分析ができることを示していると思います。 SEMの高解像度技術について詳しく知りたい方は、TKDについての ブログや、STEM-SEMについてのチュートリアルをご覧ください。

 

 

[1] Y. Funakawa, T. Fujita and K. Yamada: JFE Giho 30 (2012) 15.

[2] “Application of Plasma cleaning technology in Microscopy”, XEI Scientific, Tom Levesque and Jezz Leckenby

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Dr Haithem Mansour

X-Ray Product Manager

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